労働問題、労働基本権
労働者の人権は古くて新しい問題で、世界で最初の労働者による争議行為として1799年の「ラッダイト運動」、そしてその後の1833年に制定された「工場法」は有名です。そして、社会主義の考えが生まれた背景も労働問題が強く関係しています。現代では、国際連合の中にあるILO(国際労働機関)が労働問題に取り組んでいます。ちなみにILOは1919年に失業に関する勧告を出したことでも有名です。
アメリカでは、1935年の「ワグナー法」で労働者の人権保障が図られましたが、これはニューディール政策の中の一環として捉えられています。背景には、ニューディール政策は一般的に景気対策として有名ですが、景気対策が取られた背景には、その前に起きた世界恐慌による長期的不況があったためです。不況下での景気対策と並行して、ワグナー法で労働者の人権問題に取り組んだのがニューディール政策です。
一方、現代の日本でいえば、最近ではいわゆる「ブラック企業」問題といって、劣悪な労働条件での労働を強いたり、サービス残業を強要したりして、中には過労で命をおとしてしまう人や、会社の中でのいじめで苦しむ人が出てきている問題が挙げられます。2013年の第二次安倍政権ではこの問題に取り組むとされていますが、人間関係に絡む問題でもあるので、学校教育におけるいじめ問題の解消がうまく進んでいかないのと同様、労働問題も改革がうまく進んでいかない現状があることが最も大きな課題とも言えます。私たちは、「労働者が本来はどのような人権について保障されているのか」ということについて知ることが大切になってきています。
【労働三法】
日本国憲法の27条2項には「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とあるように、憲法では、労働者の権利は守るように規定されています。そして、憲法に書いてあるような権利を具体的に守っていくための法律として、主に、以下の労働三法と呼ばれる法律があります。
労働基準法 |
賃金・労働時間・休息等の労働条件の最低基準を定めた法律
労働時間は1日8時間以内、週40時間以内とし、労働者に有給休暇も保障。
15歳未満の労働禁止(芸能における「子役」などの特殊な例は除く)
未成年者の深夜労働の禁止
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労働組合法
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労働者が労働組合を結成し、労働組合の活動ができるように保障した法律
黄犬契約→労働組合に入らないことを条件に、新入社員を採用する。
※黄犬契約のように組合の活動を会社側が妨害すること(不当労働行為)は禁じられている。
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労働関係調整法
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労働争議(ストライキなど)の予防、あるいは自主的な解決を促すための法律
斡旋(労働委員会が指名した斡旋者が労働組合と会社の両方の意見を聞いた上で合意を促す)
調停(労働委員会と労働組合、会社側の三者で調停案を作り、労働組合と会社がこれに調印する)
仲裁(労働委員会が決定した事に労働組合と会社の双方を強制的に従わせる。)
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※このほか、2008年に労働契約法が制定されたこともあわせて覚えておきましょう。
※歴史的に見れば、バブル崩壊後の「失われた20年」の時期から、年功序列制と終身雇用制がかならずしも当てはまらなくなったということがいえます。年功序列制とは、勤続年数が長いほど、賃金が上昇する制度で、終身雇用制とは、就職してから定年退職まで同じ会社に雇用されるという制度です。これらの制度が維持されていたときには、いったん会社に入れば安定した生活が送りやすい社会だったとも言えます。
しかし、景気が悪化し、平成以降は日本の経済も閉塞感がただよってくると、企業が労働者を解雇する「リストラ」が横行したり、会社に就職できていない人が派遣社員やフリーターとして職場を変えながら生計を立てる生活を余儀なくされています。リストラや「派遣切り」による失業率の高さと所得格差が問題になっています。
また、年功序列制も適用されなくなったことは、デメリットばかりではなく、実力主義の下で、若い人でも実力があれば高い給与を得る事ができる時代になったとみればメリットもありますが、一方で、実力があっても上司に認められない、あるいは上司から嫌がらせを受けていて正当な評価を受けることができない、などの不遇な立場の会社員や、会社の仕事内容が自分の特性と合わずに仕事が出来ない人とみなされた会社員は、給与が上がらなかったり、解雇されることもあります。さらに、冒頭で述べたブラック企業の問題も含めて、努力が報われない社会になっていることが今の労働環境に暗い影を落としています。
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