地方自治
地方自治は、「民主主義の学校」と呼ばれています(ブライスが述べた言葉)。地方自治体は慢性的な財政難であり、「3割自治」とよばれるように、地方自治体が独自で得る収入(地方税)は実際に必要なお金の3割程度しかなく、残りは国が国庫支出金や地方交付税交付金というお金を支給して地方自治体の財政を保っています。
なお、地方自治体が得る収入は、今説明したように、独自で得る収入(地方税)、国が地方に与える国庫支出金や地方交付税交付金がありますが、このうち、地方が自由に使える「一般財源」は地方税と地方交付税交付金であり、一方で、国庫支出金は「特定財源」として国の政策を促進するための事業のための支出金なので、地方が自由に使えるものではなく、国の指示で使うお金となります。
2000年代、小泉政権の時には「三位一体の改革」とよばれる改革で、「地方税の割合を増やす」「地方交付税交付金・国庫支出金を減らす」という改革が行われました。税収の一部を国の収入から地方の収入に置き換える代わりに、国の収入のうち地方交付税交付金・国庫支出金と呼ばれる、地方への補助を減らそうとしたわけです。言いかえると、国から地方への補助を減らす代わりに、これまで税収のうち国の取り分だったものの一部を地方が自らの取り分とすることができるようにしようという改革です。しかしこの改革もうまくいかなかった結果、北海道夕張市のように破産してしまって財政再建団体となってしまう例も出てきてしまうなど、課題も多く残っています。
また、国の借金(国債)だけでなく、地方自治体の借金である「地方債」も多くなってきており、ますます、地方自治体が住民のためにお金を自由に使うことが難しくなってきている「財政の硬直化」が進んでいます。
【地方自治における直接民主制の考え方】
一般的に、日本の政治は、国政であっても地方政治であっても、選挙で選ばれた人たちが住民の代表者となって政治を運営する「間接民主制」がとられていますが、地方自治の場合は、一部で「直接民主制」の考え方が取られています。
「レファレンダム(住民投票)」「イニシアチブ(国民発案)」「リコール(解職請求)」の3つの言葉は、覚えるときに混同することもあるかもしれませんが、教科書などでこれらの違いを把握して調べておきましょう。また、以下の表は、地方自治に認められている直接請求の種類と内容です。
条例の制定・改廃請求
イニシアチブ(国民発案)
|
有権者の50分の1以上の署名 |
知事や市町村長に請求 |
知事や市町村長が議会にかけ、結果を公表 |
事務監査の請求 |
有権者の50分の1以上の署名 |
監査委員に請求 |
監査の結果の公表、議会や知事・市町村長にも報告 |
議会の解散請求 |
有権者の3分の1以上の署名 |
選挙管理委員会に請求 |
住民投票の過半数の同意で辞職 |
知事、市町村長、議員の
リコール(解職請求) |
有権者の3分の1以上の署名 |
選挙管理委員会に請求 |
住民投票の過半数の同意で辞職 |
副知事(都道府県)や助役(市町村)
のリコール(解職請求) |
有権者の3分の1以上の署名 |
知事や市町村長に請求 |
議会の3分の2以上の出席と4分の3以上の同意で解職 |
※なお、このほか、住民投票条例が制定されることによって、地方が抱える特定のイシューにたいして住民が自ら投票して意思を表明できる住民投票が行われる例もあります。住民投票の代表例としては、原子力発電所の建設を問う投票(新潟県巻町)で反対派が多数を占めた例、在日米軍基地(沖縄)で米軍基地の縮小の賛成派が多数を占めた例などが代表的です。これからは、東日本大震災以後、原発の再稼働の動きが生じた場合など、もしかすると特定の原発立地自治体で住民投票条例が制定され、再稼働の賛否が問われる住民投票が行われる可能性もあるので、この分野は時事問題対策としても要チェックです。
【地方自治体の事務】なお、これまで、地方公共団体が行う仕事には、固有事務と団体委任事務と機関委任事務の3種類があったのですが、国の代わりに地方が仕事を代行する機関委任事務が多くなっていたことで、地方自治体が国の下請け機関のようになってしまい、地方の実情に合った行政が行いにくいという問題もありました。そのため、2000年には地方分権一括法が制定されて、固有事務と法定受託事務に再編されることになりました。ただし、再編後の法定受託事務も、やはり国の代わりに地方が仕事を代行する内容なので、先に挙げた問題は解消されてはいないため、この改革が成功だったのかといえば否定的に捉えている人も少なくありません。
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